突然ですが皆さん、玉虫(タマムシ)という虫を見たことがありますか? 知らない、見たことない、という方が多いかと思いますので、まずはイラストを描いてみました。こんな虫です。
イラストでは伝わりづらいのですが、タマムシは「世界一美しい虫」と言われています。僕が初めてタマムシを見たのは、確か3歳の時。キラキラ輝く姿に魅せられ必死に追いかけたのですがつかまえられず終いで、母に「すごいきれいな虫がいたよ!」と報告したことを鮮明に覚えています。
そんなタマムシですが、藤枝市にタマムシを長年研究し続けてきた「タマムシ博士」がいるというので、さっそく会いに行ってみましょう。
藤枝駅北口から徒歩約5分、ここに博士がいるらしいのですが…ん?
タマムシの里?玉虫工房??
玉虫研究所???
名前が渋滞していますが、とりあえず入ってみましょう。
「どうも。よく来てくれたね。私がタマムシ博士です」
この方がタマムシ博士こと芦澤七郎(あしざわしちろう)さん。 御年88才。
嗚呼! それは!
タマムシ!
…の標本。この輝きこそタマムシ! 思わず見とれてしまうほどの美しさ。世界一美しい虫と呼ばれるのも過言ではないことがお分かりいただけましたか?
- 全身がメタリックな光沢をもっている
- 背中に赤茶色の特徴的なラインが入っている。
- 体長は3~4cm
- 6~8月に見られる。
改めて研究所の中を見渡してみると、変わったデザインのアクセサリーが。
何を隠そうここではタマムシの羽を使ったアクセサリーが制作販売されいるのです! ということで、タマムシ博士にいろいろ聞いてみましょう!
タマムシアクセサリーが作れるのは世界でここだけ
ーー「タマムシの里」「玉虫工房」「玉虫研究所」と旗や看板がありましたが、どれが正式名称なんですか?
ゼンブゼンブ。全部が正式名称。
ーー全部ですか(笑)ここでは普段何をしているんですか?
タマムシをずっと飼育観察してきて、羽を使ってアクセサリーを作って売ってます。研究はね、今はあんまりしてない(笑)
工房ではタマムシアクセサリーの販売だけでなく、アクセサリー作りを体験することができます。取材時は女性のお客様が参加していました。「女性は虫が苦手な人が多い」というイメージがあったのですが、ここに来るお客様のほとんどは女性だそう。(※2021年6月をもってタマムシ工房は閉店しました)
完成したアクセサリー。(※こちらは海外のタマムシの羽を使用)
タマムシは世界共通で「宝石の虫」
ーータマムシってどんな虫なんですか?
タマムシの「玉」は「ギョク」。これは宝石のことをいうわけ。英語だと【jewel beetle】(ジュエルビートル)っていうの。こっちも宝石の虫ってわけだ。
ーータマムシを見ると「宝石みたいにきれいだ!」って思うのは世界で共通の認識ってことですか。 っていうか、タマムシって世界中にいるんですか?
世界には2万種類ぐらいいるよ。日本だけでも200種類以上いる。
ーーえぇ!? そんなにいるんですか? あの、緑で背中にラインが入ってるやつ以外にもたくさん種類がいるんですか?
あれはね、「ヤマトタマムシ」。世界中のタマムシの中でも日本のヤマトタマムシが一番きれいだと僕は思うね。タマムシの金属光沢は「構造色(こうぞうしょく)」といって、角度によって色が変わって見えるの。鳥がキラキラしているもの嫌うから、食べられないようにあんな色をしてるわけ。
ーーへぇ〜。
他にもタマムシは「吉丁虫」とも書かれて、江戸時代からめでたい虫、幸せを呼ぶ虫とされていたわけ。昔からタマムシを箪笥に入れておくと、「着物が増える」「お金に困らない」とか言われていて、鏡台に入れておくと、「恋が叶う」って特に女性に好まれていたらしい。
ーーお守りみたいにしてたわけですね。
タマムシ一筋30年
ーー芦澤さんがタマムシを研究し始めたのはいつからなんですか?
平成元年、1989年から飼い始めて、それからずっと観察研究をしてきたの。それで、人工飼育に成功したんだ。飼って死んでしまったタマムシの羽を取っておいて、何かに使えないかなと思って。それでアクセサリーを作りを始めたわけ。
ーーそれじゃあ、タマムシを研究し始めてから…今年(2020年)で31年目?
そうだね。なんで博士かっていうと、学童保育でタマムシの授業をやって欲しいと頼まれたことがあってね。ほら。(と、イラストを指を指す)
ーー「玉虫博士」って書いてある!
ハハッ! これを作ってもらって、それから博士になっちゃった!
80才からのチャレンジ
ーーアクセサリーを作り出したのはいつからなんですか?
アクセサリーを作る工房を開いたのは平成24年(2012年)。仕事はもう辞めていて、病院でボランティアをしていたんだけど、80才を前にして、「なんかやろう」と思ったわけ。
ーーすごいなぁ。80才からのチャレンジかぁ。
道楽道楽、年寄りの道楽だよ!
ーー芦澤さん、こんなこと言って失礼かもしれませんけど、めっちゃ元気ですよね?
うん健康。病院のボランティアで患者さんの車イスを押してたんだけど、座ってるのはみんな僕より若い人ばっかだった(笑)
ーーハハハハハ!
タマムシの羽は国宝にも使われている
ーーそれにしてもタマムシを使ったアクセサリーなんて珍しいですよね。
※玉虫厨子(たまむしのずし)っていう国宝があるの知ってる?
ーーはい、聞いたことあります。
※厨子ーー仏像,仏画,舎利,経典などを安置する屋根付きの入れ物。玉虫厨子には透かし金具の後ろに約4800匹のタマムシの羽が使用されている。写真は玉虫研究所に飾られていたもの
約1400年前に日本で作られたと言われているものなんだけど、今は奈良の法隆寺に保存展示されていて、名前の通りタマムシの羽がたくさん装飾してあるわけ。だから、アクセサリーもたぶん売れるだろうと思った。さっき話したとおり、縁起の良いものだから。
ーー1400年前の国宝にタマムシの羽が! そう聞くと急にタマムシアクセサリーがすごい価値があるように思えてきました!
アクセサリーは法隆寺にあるお店にも置かせてもらってるんだよ。
ーーえ? 法隆寺に? 玉虫厨子つながりで?
うんそう。藤枝の商工会議所の人が連れて行ってくれて話をつけてくれた。パッと決まった(笑)僕は何にもしてない。ちょっと話をしただけ。周りの人が良くしてくれてね。ありがたいよ。
ーートントン拍子だ。そのエピソードを聞くと、タマムシが幸せを呼ぶ虫っていうのは本当なのかもしれないですね。
そう。僕は小学校の時に漏らしてからウンがついてるから! ハッハッハ!
ーーちょっと! なんで突然下ネタ言ったんですか!(笑)じゃあ、タマムシアクセサリーは藤枝のここと、奈良の法隆寺でしか買えないってことですか?
インターネットでもちょっと販売しているけどね。
ーー話を聴いているとすごいレアアイテムのような気がしてきました(笑)
この前、初めて国際宝飾展※にタマムシアクセサリーを出展したんだけど、お客さんの反応が良くてね。なんせ宝石ばかりの中で、虫はここだけだったから(笑)
ーーハッハッハッハ!
※国際宝飾展ーー日本で最も大規模で歴史のある宝飾展。東京ビッグサイトを会場に出展者と来場者で商談が行われる。
今回はここまで! 中編に続く
次回はタマムシ博士がどのようにしてタマムシを研究してきたかに迫ります。驚きの研究成果の数々にご期待ください!
タマムシの里
〒426-0034 静岡県藤枝市駅前3丁目9ー11
TEL 054-644-9030
営業時間 9:00〜17:00
定休日 月曜日・祝日
Blog:http://tamamushinosato.blog.fc2.com/