藤枝市の緑豊かな山間部に位置する藤枝市陶芸センターは1年間で約1万人の利用者が訪れる人気の陶芸体験施設。
ある日の陶芸センター
陶芸センターで7〜8月に食べられる植木鉢かき氷はSNSで大人気
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、キャンセルが相次ぐようになり利用者数が激減。たくさんの人を迎え入れるはずだったゴールデンウィーク前後は感染対策のため臨時休館となった。
すると、陶芸センターには「また早く土に触りたい」という声が多く寄せられる。その声に応えようと陶芸センターのスタッフたちが企画した新しいサービスが『オンライン陶芸体験coconel(ココネル)』だ。
オンライン陶芸教室coconel(ココネル)→ 申し込みはこちら
↑ ※2020/5/27追記:ネットショップ「BASE」からの申し込みになりました。
ココネルは自宅で陶芸体験をすることができるサービス。陶芸センターから自宅に送られてきた陶芸キットを使い、Zoomアプリ※を用いて、オンライン上で指導を受け、お皿や湯呑みなど希望したものを作ることができる。
完成した作品は陶芸センターに送り返し、陶芸センターの窯で焼き上げる。サービスは5月時点では試作段階。基本的に静岡県中部にお住まいの方を対象としているが、6月から東京や大阪などにもエリアを拡大する予定だ。また、感染予防対策として、配送前後に陶芸キットを殺菌消毒処理する。
※Zoom:オンラインビデオ会議アプリ
【レポート】オンライン陶芸教室ココネル
実際、ココネルってどんな感じなの? ということで、サービス開始初日(5月2日)に体験させてもらいました!まず、インターネットで申し込みを済ませると、自宅に段ボールに入った陶芸キットが送られてきます。
中に入っているものはこちら。
こちらが同封されている「オンライン陶芸教室たのしみ方ガイド」
サービスの詳細はこちらでご確認を
そして当日。キットに入っていたスマホスタンドに自分のスマホをセットして、Zoomを起動。
「どうも〜」。この方がココネルの講師を務める藤枝市陶芸センター館長の前田直紀(まえだなおき)さん。
陶芸作家:前田直紀
1977年、静岡県藤枝市に生まれ大阪産業大学環境デザイン学科卒。京都宇治にて修行(野嶋信夫氏に師事)。2002年、静岡に戻り制作を始める。国内・海外で精力的に活動する他、地元藤枝市陶芸センターの館長を務める他、静岡市葵区人宿町に「前田直紀陶芸教室」も開講。
ちなみに前田さんは作品の制作・展示のため2020年2月から3月まで台湾に滞在しており、その最中に新型コロナウイルスが流行。体調に問題はありませんでしたが、大事を取り、帰国後は2週間自宅待機をしていました。
肖像権に配慮
この日参加するのは僕を含めて5名。簡単な自己紹介を済ませ、それぞれの作りたいものを確認すると、さっそくスタート。
今回、僕(ライター岡村)はでかい湯呑みを作ろうと思います。ちなみに陶芸初心者です。他の参加者のみなさんが作るものは、「湯呑み」「大きなお皿」「小さめの丼」、そして、お子さんと一緒に参加された方は「スピノサウルスのついた茶碗」とバリエーション豊かでした。
よろしくお願いします。まずは準備運動ね。粘土をペンペンしてまぁるくしてみましょう。
ーーペンペンペンペンペンペン。
ーー丸くなりました。
粘土が丸くなったら、ギュッギュッギュ…ろくろの真ん中にくっつけていきましょうか。
ーーギュッギュッギュ、と。
藤枝市陶芸センターでやっている普段の陶芸教室は、みんな自由に作ってもらってるんですね。なので、自分らしい器になったら最高。きれいな器より自分らしい器を作るのが優先。
…岡村さん、粘土がひび割れているようなので、手を水で湿らせて粘土を触ってみてください。そうですそうです。もうちょっと根本が丸くなるといいですね。
◯◯さんは幅が太めの湯呑みにしたいってことなので、あと1cmくらい根本を大きくしてください。
△△くんも頑張ってるね。良い感じだよ。もうちょっと肩下げてリラックス。…そうそうそう!
□□さんは優しい性格が出ちゃってますね。親指だけではなくて残り4本の指でも、全部の指でしっかり触ってみてください。
☆☆さんはバッチリですね。このまま平らに潰しながらお皿を大きくしていきましょう。小指も使ってやってください。
参加者5名の様子をモニター越しに確認し、優しい口調でわかりやすくそれぞれにアドバイスしてくれる前田さん。かの聖徳太子が10人以上の話を同時に聴き分け、全員に的確な答えを説いたという逸話がありますが、前田さんの講師ぶりも聖徳太子さながら。普段から講師をやっている前田さんだからこそ、オンライン上でも気配りを怠らず的確なアドバイスができるのでしょう。
そしたら次の段階に行けそうですね。親指で真ん中に穴を開け、ろくろを回しながらギュッギュッギュ。
ーーギュッギュッギュ。
段々穴が空いてきましたよね。
……
……
……(黙々と作業をする皆さん)
みなさん、しゃべってもいいからね?
……
……
……(引き続き黙々と作業をする皆さん)
じゃあ、もう僕どっか行ってくるんで、みなさん頑張ってくださーい!
ーーハッハッハ!(一同)
こんな感じで、前田さんが時折冗談を交えつつ、気さくに進行してくれるので、最後までアットホームな雰囲気の中で土をいじることができました。いや、自宅にいるので文字通りアットホームなんですけど!
岡村さんいいですね。そしたら穴を深く、背を高くしていってください。厚みも均等になるようにしていってください。
ーー背を高く…厚みを均等に…
いいですね。そしたらろくろをグルーっと回して、水に濡らしたスポンジで中を滑らかにしていきます。利き手でスポンジを持って、もう片方の手は利き手を固定してください。
ーーグルーっとろくろを回して…
ーーもう片方の手で利き手は固定…こんな感じですか。
そうそう。そんな感じです。内側も外側も拭いてやるときれいな器になっていきます。
ーーなんか、滑らかになりました!
岡村さん淵(ふち)はどう? ボコボコしてる方が好き?
ーーボコボコしてる方がいいです!
うんうん。そのままでもかわいいと思うので、切って淵を真っ直ぐにしなくてもいいと思います。触り出したらキリがないのですが、触りすぎてもいいことはないです。「あっ! いい表情を見せた!」と思った時を完成にしてあげてください。
ーーじゃあこのままシンプルな感じでいきましょうかね。これで完成にします!
最後に、ワイヤーでろくろと作品の根本を切って、
板の上に乗せて8〜12時間乾燥させます。
そうこうしている間にみなさんの作品も続々と完成し、モニター越しに作品を見せ合いっこ。どれも素敵な作品でした! 自分で作ったものって、やっぱり愛着が湧きますね。ふと、気づいたのですが、粘土をこねている間はコロナのことを完全に忘れていました。
あっと言う間の1時間半。オンラインの陶芸教室ということで、意思疎通がうまくできるか不安でしたが、蓋を開ければ前田さんの指導はとてもわかりやすく、楽しんでやることができました。
完成した作品は配送されてきた段ボールに戻して陶芸センターに返送。この時に色指定を忘れずに。
新しいコミュニケーションの形
作品づくりが終わると、歓談の時間。この時間を利用させてもらい、参加者の皆さんにオンライン陶芸教室ココネルを体験した感想を聴かせてもらいました。
ーーそれでは皆さん、感想を教えてください。
特別に京都から参加したAさん
Twitterでココネルを知って申し込みました。スマホを使ってこういうことをするのも初めてですし、陶芸も初めてで、初めてばかりでドキドキしましたけど、すごい楽しかったです。
お子さんと一緒に参加したBさん
友達が陶芸をやっていて気になっていて、今回やってみたらすごい面白かったです。私は介護職で日々忙しくて、こうやって時間を取って真剣に陶芸をやれることがなかったので、いい経験になりました。今日は子どもと一緒にやってわちゃわちゃしましたけど、子どもが大きくなったらまた一緒にやりたいです。
陶芸初体験のCさん
陶芸をするのが初めてで、前から1度体験したいなぁと思っていたのですが、すごい楽しくてあっという間でした。「器をもっと丸くしたいな」と思ってやってみても、頭の中で思い描く形にになかなかならなかったです。朝ドラのスカーレット※を見てたんですけど、やっぱ難しいものなんだなと思いました。
※スカーレット:女性陶芸家・川原喜美子の半生を描いたNHKの連続テレビ小説。2019年9月〜2020年3月まで放送。
陶芸経験者のDさん
前に陶芸をやっていたことがあって、この巣篭もり時間をどう過ごせばいいのかなと思った時にまた陶芸をやりたいなぁと思って。静岡新聞にココネルのことが載っていたのですぐに申し込みました。楽しかったです!
ーー前田さん今回はいかがでしたか?
僕ら陶芸センターのスタッフは大きなモニターで皆さんの表情を見てたんですけど、こうやってオンラインでやりとりするのは新しいコニュニケーションだなって感じます。オンラインだと、いざって時に触って「ここをね…」って教えることができないので、画面越しに教えるのは難しいところもありますよね。
ーー個人的にはとてもわかりやすくて、細かいところまで指導していただいたなと思いましたよ。やってる最中はコロナのことをすっかり忘れてました。では最後に前田さんから一言お願いします。
みなさんありがとうございました。こういう時期で陶芸センターは現在閉館中なんですが、開館したら今回みたいな雰囲気で皆さんをおもてなしたいなと思っています。陶芸センターのある里山は、すごく美しい自然がたくさんありますので、ぜひとも訪れていただけたらなと思います。今後ともよろしくお願いします。僕らも元気もらいました!
ーーありがとうございました。
…後日、陶芸センターから作品が無事返送されたことを知らせる動画(参加者限定公開)が送られてきました。焼き上がるのは1ヶ月半後。その頃にはコロナが収束しているといいなぁ。
個人的に、ココネルは「陶芸にチャレンジしたいけど、なかなか敷居が高くて…」と思っている方にオススメです。 なんせ、工房に行かずにひとりで自宅でやれるので気が楽です。僕からは以上です!
土を触っている時間はきっと幸せ
ココネルの発案者は2020年4月に藤枝市地域おこし協力隊に着任したばかりの杉本哲也(すぎもとてつや)さん。ココネルにはどんな想いが込められているのかお話を聴きました。
――「オンライン陶芸教室coconel(ココネル)」はどういう経緯で企画されたんですか?
僕はこの仕事に就く前に教室生として藤枝市陶芸センターに通ってたんですよ。それで、地域おこし協力隊になって働き始めたら、コロナの影響が大きくなるに連れて、目に見えてお客さんの数がどんどん減っていくのがわかって。
「なんとかしなきゃ」と思った時に、単純な発想で陶芸のキットを送って家庭でやってもらえたら、と思ったんです。土をこねてる時ってけっこう無心じゃないですか。 自宅で陶芸ができれば、コロナのことを忘れて土に集中できるんじゃないかなって思ったんですよ。コロナで今までの日常が崩れちゃって、心のバランスを整える意味でも、家でできることを提供したいな、と。
――ココネルはコロナを忘れるための手段だと。オンラインでは音楽教室や料理教室などなど、いろいろな教室がありますけど、「オンライン陶芸教室」というのはありそうでなかったと思います。探しても前例が見つかりませんでした。ココネルを立ち上げる時に不安はなかったんですか?
作品が歪まないか? とか、いろいろ陶芸センターの中で意見が出たですけど、お客さんから「また土触りたいな」って声がいっぱいあったので、まずは身近なお客さんのためになんとか形にする方が先じゃないか、とりあえずやってみよう。っていう形で陶芸センターのみんなに理解してもらって。小さい施設だからこそできたことだと思います。
――「ココネル」の名前の由来を教えてください。
「ココ」っていうのには3つの意味があって、
- 「ここ」=「お客さんの家」
- 「個々」=「ひとりひとり」
- 「CO(こ)」=「共に、一緒に」
それと、「コネル」っていうのは、「土をこねる」の「こねる」。そういう意味を込めて『ココネル』と名付けました。
――では質問の方向を変えて。杉本さんが藤枝市の地域おこし協力隊になったきっかけを教えてください。
前田さんですね。前田さんとは前の仕事の時から付き合いがあって。前職は静岡市役所の観光課だったんですけど、静岡市の観光協会に出向して前田さんと地域資源を使った子ども向けの陶芸の企画をやっていたんです。でも、出向が終わって市役所に戻ったら絡むこともなくなってめちゃめちゃ寂しくて。「ああいう仕事をずっとやっていたかったのにな」って想いがあったんですね。前田さんにそういう話をしたら、地域おこし協力隊の募集があるよ。って声をかけていただいで。
――着任早々ココネルを思いついたのも、前田さんとの信頼関係があったからなんですね。ココネルって、コロナが収束してからも継続できるサービスだと思うんですけど、そこのところはどう考えていますか?
陶芸センターの新しいサービスのひとつの軸になればいいなと思っています。バリエーションをもっと増やしていきたいと思っていて、今はまだ試作段階で参加者のみなさんに好きなものを作ってもらっていますけど、例えば、今日はガーデニング用の鉢を作る回、とか。回ごとに作るものを決めてやるとか。
――作る物をあらかじめ主催側で決めてやるのもいいですね。ココネルは現在で基本的には静岡県中部に住む人限定でサービスを進めていますが、今後全国展開のようなことも考えていますか?
そうですね。一応静岡県中部に住む方を対象に試験的に初めているんですが、県外からの問い合わせも多くて。それだけ陶芸センターが愛されている施設なんだな、と。
――ココネルをどんな人に体験してもらいたいですか?
いろんな人に体験してほしいんですけど、1番使ってもらいたいなと思っているのが、子育てをしている親御さんです。保育園とか幼稚園、学校が休業していて、子どもと毎日24時間一緒にいると、やっぱり気分転換したいなって気持ちがあると思うので。ココネルで気分転換してくれたうれしいですね。子どもと一緒に作ってくれてもいいですし。
――ココネルはただ陶芸するためのサービスじゃなくて、今ならコロナ疲れとか、いろいろなストレスからリフレッシュするためのサービスだというのが大きな特徴ですよね。
陶芸センターにいつも来てくれていたけど、来れなくなってしまったお客さんとココネルを通じてまた繋がりたい、というのがスタートですからね。明るい前田さんとZoom上でお話をしながら器を作って、癒されてくれればいいなって思います。
――最後にこれからココネルを利用しようと思っている人たちにメッセージをお願いします。
今はみんなで心のバランスを整えましょう。ずっとテレビでコロナのニュースが流れて、WEBもコロナの情報ばかりで…1回全部閉じて、土を触って、少しでもコロナのことを考えない時間があれば、きっと幸せなので。ちょっと忘れる時間を作りませんか。
藤枝市陶芸センターは5月12日(火)〜営業を再開
藤枝市陶芸センターは、窓を開け換気をおこない、テラス席での陶芸体験も受け付けるなど、三密を避ける対策を取り営業を再開。一刻も早くコロナが収束し、たくさんの人が施設を訪れるよう心から願います。
◯オンライン陶芸教室coconel(ココネル)→ 申し込みはこちら
↑ ※2020/5/27追記:ネットショップ「BASE」からの申し込みになりました。
◯藤枝市陶芸センター
〒426-0131 静岡県藤枝市瀬戸ノ谷1706−1
TEL&FAX:054-639-0148
営業時間 9:00〜17:00
定休日 月曜日(月曜祝日の場合は翌火曜日)
◯前田直紀さんの情報はこちら