前編では山田さんがヴィンテージスニーカーショップ「MAGFORLIA(マグフォリア )」をオープンするまでの話を聴いた。
前編はこちら ↓
【世界的PUMAスニーカーマニア 山田隆也が貫き通すエゴ 前編】
今回の中編では、山田さんが初めてPUMAのスニーカーのディレクションを手がけた際の話を聴いていく。山田さんはどんな想いをもってショップ別注スニーカーの製作にに向き合っていたのだろうか。
JAPAN SUEDE MID magforlia
山田さんが初めてディレクションを手がけたショップ別注スニーカー「JAPAN SUEDE MID magforlia」は、2012年に国内25店舗ほどで300足限定発売され、ヴィンテージスニーカーマニアから今なお高評価を得ているモデル。
JAPAN SUEDE MID magforliaが発売されて以来、このモデルのレッド×グリーン×ブラックのカラーリングはスニーカーファンの間で「マグフォリアカラー 」と呼ばれるようになり、MAGFOLIAと山田さんはさらに知名度を大きくした。
復刻はオリジナルを超えられない
山田さん私物「Clydeマルチカラー※」のオリジナル(写真手前)。このヴィンテージスニーカーを原型に、「JAPAN SUEDE MID magforlia(写真奥)」は作られた。
※Clyde(クライド)… PUMAを代表するスニーカーモデル。NBAニューヨークニックスの人気選手ウォルト・フレイジャーのニックネームを冠したシグネチャーモデル。1973年販売。
※Clyde マルチカラー … NBAで惜しくも優勝を逃したウォルト・フレイジャーに励ましの意を込めてPUMAが贈ったとされているモデル。ブラック×レッド×グリーンのアフリカントリコロールカラー。1973年販売。
ー 山田さんがPUMAスニーカーのディレクションを最初にしたのは2012年に販売されたショップ別注※の「JAPAN SUEDE MID magforlia」ですね。あれはどういう経緯で?
普段からPUMA JAPANの方と「こういう靴やりたいですね」って話はしてたんですけど、ある時、「山田さん別注やりたくないですか?」って言われて。『匠 COLLECTION※』で、PUMAと密な関係を築きあげた縁の深い3人で「原点回帰」をテーマに、それぞれの思いを形にしてみましょうっていう話になって。
で、メーカーの人も僕の好みを知ってくれてたから「山田さんやるならやっぱClyleでマルチカラーですか?」 って言われたんです。
「Clyde のマルチカラーはやれるならやりたいけど、それだと夢が叶っちゃうからSUEDE※にしましょう」って言ったんですよ。僕の理論に「復刻はオリジナルを超えられない」っていうのがあって。だから自分の中でなるべくClydeマルチカラーのディティールを復元しつつ「これがオリジナルだ」ってものを作りたかったんです。
ーーそれでSUEDEになったんですか。まとめると、Clydeマルチカラーを原型にした別のモデルのSUEDEで、山田さんのオリジナルを作りたかったと。
そうです。しかも、ローカットじゃなくて無理くりミッドカット※にしてもらったんですよ。リリースされた時は周りからよく「なんでローにしなかったの?」って言われました。日本人は着脱が楽なローカットが好きなので(笑)でも、あれは僕のわがままで「ミッドじゃないとやらない」って言ったんですよ。それに他の2人が合わせてくれたんです。
ーー山田さんのこだわりに他の2人を巻き込んだってことですか(笑)
※別注 … 通常展開されない商品を特別に注文すること。ショップ別注とは、ショップがディレクションを手がけた特別モデルのこと。
※JAPAN SUEDE MID for 匠 COLLECTION … MAGFORLIAの他、mita sneakers、UNDEFEATEDと、PUMA JAPANから信頼を得ている3店が参加し、ショップ別注スニーカーを企画した。
※SUEDE(スウェード) … Clydeと並ぶPUMAを代表するスニーカーモデル。スウェード素材を使っていることが特徴。昨年2018年にSUEDE50周年として数多くの記念モデルが発売された。
※ローカット・ミッドカット … 靴を履いた時にくるぶしが見える丈をローカット、くるぶしが隠れる丈をミッドカットと呼ぶ。
★ClydeとSUEDEの違いはこちらを記事を参照に ↓
いまさら聞けないスニーカー | #2 PUMA ClydeとPUMA SUEDE
思うようにならなくて、2回「企画からおります」
ヒール部分
左:JAPAN SUEDE MID magforlia
右:Clyde マルチカラー
ーーディレクションはかなりこだわったらしいですね?
いや、めちゃくちゃこだわりましたよ。思うようにならなくて完成するまで2回「この企画からおります」って言いましたから。「やりたいことができないならやめます。僕の別注を求めてくれるヴィンテージラヴァーの人たちは、『山田がやるものはこういうもの』だってわかってくれているから、その状態でリリースするとみんなをがっかりさせてしまうのでやめます」って。
ーー具体的にはどんなところに納得できなかったんですか?
「ここはこうして、あそこはこうして」って、いろんな壁を乗り越えながらやっとのことでできあがったファーストサンプルに幻滅して。
サンプルが届いてすぐメーカーから「山田さんどうでした?」って電話をもらって、メーカーからしたら出来栄えに僕が感動して喜ぶと思ったと思います(笑)でも、「あのー、12項目直して欲しいところがあるんですけど」って伝えてたら、「えぇ〜!?」って。
左:JAPAN SUEDE MID magforlia
右:Clyde マルチカラー
ーー12項目も!?
そしたら何項目かはできないって言われまして。まず、トゥの赤い部分の色が薄かったんですよ。それを濃くするために2度染めしてくださいって言ったら「それはコスト的にできない」って返事が返ってきて。それでなくても僕の提案カラーは3色使ってるから企画の中で1番コストが高かったんですけど、「それが通らないならおります」って。
サイドのライン(フォームストリップ)の色の違いに注目
ーー1度目の「おります」はそこで。
で、結局2度染めしてもらって。その次に「サイドのラインの緑をもうちょっとビビットにしてくれ」って言ったんですけど、僕の求めてる色を出すための染料が日本では使えなくて、そこはやむを得ないためにあきらめました(笑)
で、最後がサイドのロゴ。現行品はアイレットベース※に平行にPUMAの刻印を打ってあるんだけど、それを70年代のヴィンテージのディティールと同じように刻印をフォームストリップ※に平行にしてほしいって言ったんです。そしたら「品番が変わってしまうからできない」って。そこでまた「だったらおります」と。
ーー刻印ひとつで品番が変わってしまうんですか。
そしたら結局2、3日後に「山田さん、新品番の許可おりました!」って連絡があって。だから、僕がディレクションした時の匠COLLECTIONの3足って、新しい特別な品番になってるんですよ。
※アイレットベース … 靴紐を通す穴。
※フォームストリップ … PUMAスニーカーのサイドに入っているライン。
『最大公約数』を導き出し良い製品を作るため戦う
ーー話を聞いてると、山田さんの我を通す性格が浮き彫りになってきますね。どうしてそこまでこだわりを貫くんですか?
ディレクションする時は毎回メーカーとやりあうんですけど、なんでかっていうとお互いに良い製品を作るために戦ってるわけなんです。メーカーはお客さんが納得してくれるものを作るべきだけど、そこでコストっていうものは絶対無視できないじゃないですか。
ーーコスト、大事ですね。
でも、僕はメーカーの人間ではないからコストのことは考える必要がなくて。要は僕がコストのこと考えないでこうやるべきだって言って、メーカー側はコストを考えた上でこうやるべきだって言ったその『最大公約数』が現実的に出せる1番良いものなんですよ。それは別注じゃないとできないんです。
ーーなるほど。お互い提案し合いながら着地点を探すような。
そういうことです。僕が100言ったものを100叶えろって言ってるわけじゃなくて、僕がコストを度外視して言った100、向こうがコストを考えた上で言った100、その最大公約の50、50ないし欲を言えば60とか70を導き出すために、お互い自分よがりに言っていくんですよ。
ーー山田さんがメーカーの力を最大限引き出してるとも言えますね。
僕が言った通り100%やったら採算合わないのはわかってるんです。もっと言うと、メーカーが苦しい思いをしない別注なんて何の意味もないと思うんですよ。
一時期、ファッション業界にお金を払えばやらせてもらえる『別注商法』が横行してたんですよ。そのやり方ってイージーオーダーじゃないですか。別注という名前はつくけど、実際は別注とは呼べないんですよね。
MAGFORLIAの山田として、ビンテージスニーカーラヴァーの1人として、別注を出す上で僕に求められているものっていうのは『忠実な復刻』。アップデートさせるとすれば、見えない部分であって、見た目上は「どこまでオリジナルに忠実な復刻ができているか」っていうところを求められていると思うんです。
ーーそれって山田さんにしかできないことなのかもしれませんね。
MAGFORLIAの10周年を祝い、PUMA JAPANからプレゼントされたClydeマルチカラーの復刻版。ヒール部分にはマグフォリアが店を構える藤枝市の市章も。
次回、復刻に賭ける熱意が世界のPUMAを動かす。
次回(最終回)の後編では、山田さん自ら企画した人気インラインモデル「BASKET 90680」のディレクションについて言及します。
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