世界的PUMAスニーカーマニアであり、スニーカーシーンを引率する山田隆也さん。前編では山田さんがスニーカーカフェMAGFORLIAをオープンするまでを追い、中編ではヴィンテージラヴァーの知識を活かし、初めてディレクションを手がけた別注スニーカー「JAPAN SUEDE MID magforlia」について話を聴いてきた。
前回までの記事はこちら ↓
世界的PUMAスニーカーマニア山田隆也が貫き通すエゴ【前編】
世界的PUMAスニーカーマニア山田隆也が貫き通すエゴ【中編】
最終回となる後編では、山田さんがPUMAに企画を提案したことで商品化が実現した「BASKET 90680」にフォーカスしたい。山田さんが個人的集大成と言うBASKET 90680にはどんな思いが秘められているのだろうか。
BASKETはSUEDEのルーツモデル
山田さんがフルディレクションした「BASKET 」
2017年11月にリリースされた。
本題に入る前に、「BASKET」と「SUEDE」の関係についてふれておこう。PUMAを代表するスニーカーSUEDE(スウェード)。このSUEDEというモデル名は、元々アッパーにスウェード素材を使用していることから名付けられたニックネームだった。SUEDEがモデル名として正式に採用されたのは90年代初頭のこと。
80年代中期ユーゴスラビア製のSUEDE(上記の通り、正確にはこの当時のモデル名はSUEDEではなく、ブランドの名を冠したPUMAというモデル名だった)。画像はBlog「VINTAGE PUMA FAVORITE」より借用。
山田さん私物の西ドイツ製初期モールドのBASKET。
この「SUEDE」の直接的な原型は1968年にリリースされたバスケットシューズの「BASKET」。この関係性を理解した上で本題へ進もう。
PUMA ドイツ本社からオファー
BASKET 90680はバンプ(つま先)とシュータンにスウェードを採用している。この仕様は1971年〜75年頃までに製造されたオリジナルの特徴を再現したもの。また、サイドラインの補強ステッチもヴィンテージマニアにとってはたまらないディテールだという。
ーBASKET 90680(以下、90860)をディレクションはどんな経緯で?
実は2011年に70年代初期モールドのバンプスウェードBASKETの復刻をドイツのPUMA 本社の企画会議に担当者を通してあげてもらったことがあったんですけど、その時は即答で「NO」で。
ことが動いたのは2016年に僕とPUMA JAPANが渋谷で一緒にやった「PUMA CLASSICS GALLARY(プーマクラシックスギャラリー)※」ってイベントです。
【PUMA CLASSICS GALLARY】→ LINK
そのイベントでヴィンテージコーナーに展示していたアーカイヴスニーカーのほとんどを僕とPUMA JAPANの野崎さん※の私物で展示したんですよ。で、イベントのレポートをPUMA JAPANがドイツの本社に提出したら、個人の私物をたくさん展示していたことにすごい驚いたらしくて。それで、今まではインスタグラムで繋がっている程度でしたが、僕に興味を持ってくれたみたいです。そんなところから事態が動いて。
※【野崎兵輔(のざきへいすけ)】ー スニーカーマニアとして知られるPUMA JAPAN社員。山田さんと協力しBASKET 90680のディレクションを手がけた。野崎兵輔インタビュー → LINK
ー山田さんと野崎さんのコレクションがドイツのPUMA本社も驚くほどのものだった、と。
で、2018年がSUEDEの50周年にあたるので、その時に今ある「SUEDE CLASSIC」ってラインを、より80年代のユーゴスラビア製モールドに近づけようって企画が本社からあがったんです。じゃあ、それをディレクションするのは誰なんだ? ってことで、僕に。
山田さんがフルディレクションした「SUEDE 90681」。こちらも当時のディテールを可能な限り再現している2018年1月発売。
ードイツ本社から山田さんに依頼が。すごい!
だからそもそもお願いされてたのはSUEDEの方なんですよ。2016年の10月にドイツ本社の方が来日したタイミングでPUMA JAPANでSUEDE 50周年モデルのミーティングをしたんです。
その時、事前に野崎さんに連絡して「実はSUEDE50周年という企画の中で、以前やりたいと言って却下されたBASKETの企画を上げたいです。ミーティングが終わった後に、企画をあげるので援護射撃してください。僕がバンプスウェードのBASKETを持っていくので、野崎さんの持ってるBASKETも持ってきてください」ってお願いして。
ーBASKETの復刻は山田さんの持ち込み企画で、かなり気合を入れて挑んだんですね。
「BASKETってシンボリックなモデルがSUEDE50周年の中に必要なピースなのに、なんでBASKETは復刻しないんですか?」って感じで話をしたんです。そしたら、2011年の時にお願いして即答でNOだったわりに、すんなりOKが出て(笑)
ー2011年に企画を提案してダメだった時から5年越しの思いが叶った、と。確かにSUEDE50周年のタイミングでルーツモデルのBASKETの復刻は理にかなってる気がします。
だから、90680はプーマからすれば偶発的にできたプロダクトなんですよ。2018年はSUEDE50周年でPUMAが力を入れていろいろなSUEDEのラインナップを作ったんですけど、正直僕からするとBASKET50周年のほうがしっくりきます(笑)メーカーとの見解の違いなのでやむを得ませんが。
ヴィンテージラヴァー目線でプロダクトを作る意義
手前:ユーゴスラビア製モールドを再現したBASKET 90680 / 奥:山田さん私物の西ドイツ製初期モールドのBASKET。90680とはシューホールの穴の数やサイドライン下のホール、ステッチ、ソールなどディテールが異なる
どうしてBASKETを復刻したいと思ったんですか?
僕がいろんなメーカーにする話があるんですよ。『新品の靴を買う人』っていう円があったとして、その円の中にヴィンテージスニーカー好きの人はどのくらいいると思いますか? って話をするんです。
ー円グラフの中にどれくらいの割合で、ってことですか。全然検討つきません。
現状で言うと、ほぼゼロなんですよ。
ーゼロ?
ゼロは極端なんですが(笑) ヴィンテージスニーカーを好きな人のほとんどは円の外にいる場合が多いんです。
ー円の外…なるほど! ひっかけ問題ですね。つまり、ヴィンテージスニーカーを好きな人は新品のスニーカーを買わない、買っていない、ということですか。
要は自分のヴィンテージラヴァーとしてのこだわりを満たす新作のスニーカーがないんですよ。でも、日本にはヴィンテージ好きな人はけっこういて、ヴィンテージの特性上、基本的には安心して履ける普段使いの新品を買いたいと思ってるんだけど、購買に至ってないというケースの話を多々耳にしてきました。
一般的な人たちはスニーカーを買う時に色目とか履き心地を気にすると思うんですけど、ヴィンテージが好きな人は、トゥが丸すぎるとか、トゥの傾斜がシャープじゃないとか、紐のコットンのパーセンテージが少ないとか、そういうことを気にするんですよ。
ーとにかくヴィンテージ好きの人はこだわりが強い、と。
ヴィンテージを好きな人だけがこだわりが強いというわけではなく、ヴィンテージ好き特有のこだわりどころってのがあって。なので、どんな商品においてもではなく、あくまでヴィンテージスニーカーの復刻を作る上で、特に日本国内で言えることですが、
ヴィンテージ好きの目線でプロダクトを作ったら、やり用によってはヴィンテージスニーカー好きからも、新品スニーカー好きからも、そして一般の人からも、すべての人たちから評価されるチャンスが得られるんですよ。90680は売り上げの実績が出ていて、それを初めて体現できたと思っています。
ーヴィンテージ好きの目線で作ったプロダクトが評価されることを証明した。そのための復刻だったということですね。
うれしいのが、ヴィンテージ好きの人たちがみんな90680を「これは欲しい」「履いてみたい」って思って買ってくれていることなんですよ。それが自分にとって1番の評価点。
3万円くらいの一切妥協しないスニーカーを作りたい
MAGFORLIA店内の一角にはディレクションを手がけたスニーカーがアーカイブとして展示されている。
ー今回話を聴かせてもらって、山田さんのスタンスって昔から全くブレていなくて、ヴィンテージマニアとしてのエゴをずっと貫き通してきたんだと思いました。BASKET 90860の商品化は「山田さん個人の熱意が世界のPUMAを動かした」と言っても過言ではないと思います。
昔からこの性格だっていうのはあるんですけど、20年くらいこの業界いて、生意気なことを言っても「山田のことだから」ってわかってくれて協力してくれる人がいるんですよ。有難いことに。
ー今後やってみたいことは?
もし今度僕が何かで別注やることがあったら、定価3万くらいで一切妥協しないものをやりましょうって話をメーカーにいつもしてるんですよ。でも、僕の望むことが100%叶うんだったら、たぶんメーカーが「山田と一緒にやるのやめよう!」って思うんじゃないかな(笑)だって、絶対精算合わないから(笑)
ー山田さんが一切妥協しないで作るスニーカー、めちゃくちゃ興味あります!
良いものを作れば、値段が高くても頑張って買おうとしてくれる人はたくさんいると思うんです。そのかわり妥協はできないですし、プロダクトの真意を購入してくれるすべての方に伝える義務も発生する。だから、もし今後そういったチャンスをもらえたなら、購入してくれるであろう人たちに対して失礼なものは作れないですよね。
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